【交通事故】無職者(失業者・学生・生徒・幼児)の休業損害

2015/03/21

 

1 休業損害とは

休業損害とは,傷害により仕事ができなくなり,得べかりし利益を失ったことに対する損害で,その発生期間は,原則として事故発生時から傷害の治癒または後遺障害の症状固定日または死亡日までの期間となります(症状固定日または死亡日の翌日以降の逸失利益は後遺障害逸失利益または死亡逸失利益として算定されます)。

無職者(失業者,学生,生徒,幼児など)の場合,収入の喪失という事態が発生しないため,原則として休業損害は認められません。

もっとも,以下のように,無職者であっても休業損害が認められる場合があります。

 

2 失業者

 

労働能力及び労働意欲があり,就労の蓋然性があるものは休業損害が認められます。
もっとも,具体的に就職が内定し,就労開始時期,収入額が明確な場合を除き,平均賃金より下回った認定になることが一般的です。

①大阪地判平成10年1月23日・交民31巻1号57頁
アルバイトを退職して休職中の被害者(女・26歳)につき,被害者は転職を重ねたものの,ほぼ継続して就労を続けていたこと,その収入によって家族の生活を支えていたこと,事故時において次の就職先を探していたこと等から,退職前(事故前日に退職)のアルバイト収入(月額16万円)を基礎として休業損害を算定した。

②大阪地判平成17年10月12日・交民38巻5号1406頁
著名私立大学卒業後,米国留学をしてMBAの資格を有する被害者(男・30歳)につき,事故前に離職していたが,事故直前に就職先が内定しており,その会社から年俸1500万円の成果報酬ボーナス及びストックオプション付与の内諾を得ていたこと等から,年収1500万円を基礎に,事故日から61日間は100%,その後3か月間は60%,症状固定まで3か月間は30%で,547万円余りを認めた。

③京都地判平成23年6月10日・交民44巻3号765頁
職業訓練生兼短期アルバイト(男・44歳)につき,事故翌月に職業訓練が終了した後の就職先は未定であり,直ちに就職できた可能性は低いこと,事故の約3か月後には1週間,事故の約6か月後には約半年間,それぞれ就業して賃金を得ていたことなどを考慮し,症状固定までの1272日間のうち1000日について100%の休業と認め,事故前の勤務先における年収が約300万円であったこと,年齢等から,基礎収入は平成14年賃セ男性学歴計全年齢平均の約6割強の350万円として,958万円余りを認めた。

 

3 学生・生徒・幼児

 

学生がアルバイト収入を得ていた場合には,アルバイトの継続性が問題となりますが,休業損害が認められます。

また,事故による受傷のため就職時期が遅れた場合等の場合には,休業損害が認められます。
この場合,具体的に就職先が内定していた場合には,就職先において現実に得られたであろう給与額を基礎に算定することになりますが,就職が内定していなかった場合には,賃金センサスの初任給(大卒は20歳~24歳の平均値,高卒は「~19歳」の平均値)で,学歴別の平均賃金を基礎に算定するのが妥当とされます。

①名古屋地判平成14年9月20日・交民35巻5号1225頁
就職が内定していた修士課程後期在学生(男・事故時27歳)につき,事故により就職内定が取り消され症状固定まで就業できなかった場合に,就職予定日から症状固定まで2年6か月余りの間,就職内定先からの回答による給与推定額を基礎に955万円余を認めた。

②大阪地判平成19年1月31日・交民40巻1号143頁
高校3年生(女・固定時23歳)につき,高校在学中,某大学フランス文学科への推薦書が提出されていたことから,事故に遭わなければ大学に入学・卒業していた蓋然性が高いとし,賃セ女性大卒20歳から24歳平均を基礎に,大学卒業年の4月1日から症状固定まで518日間426万円余を認めた。

 

 

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