1 休業損害とは
休業損害とは,傷害により仕事ができなくなり,得べかりし利益を失ったことに対する損害で,その発生期間は,原則として事故発生時から傷害の治癒または後遺障害の症状固定日または死亡日までの期間となります(症状固定日または死亡日の翌日以降の逸失利益は後遺障害逸失利益または死亡逸失利益として算定されます)。
給与所得者が事故に遭って休業した場合の休業損害について,どのような問題が生じうるでしょうか。
2 給与所得者の休業損害の算定方法
事故前の給与額を基礎収入とし,欠勤のために喪失した給与額を算定します。実際には,事故前3カ月の平均給与を基に,平均日額を算出した上,休業日数を乗じて算定します。
3 個別の論点
(1) 有給休暇を取得した場合
治療期間中に有給休暇を使った場合は現実の収入減はありませんが,有給休暇は労働者の有する権利として財産的価値を有することから,休業損害として計算されます。
① 東京地判平成14年8月30日・交民35巻4号1193頁
自宅で静養するために合計13日の有給休暇を利用した場合につき,有給休暇の財産的価値に鑑み,前年給与所得を365日で除した金額で13日分を認めた。
※原告自身が365日で除した金額で請求したもので,勤務日数で除すことができるかどうかは判断されていません。
(2) 休業中に昇給,昇格があった場合
昇給,昇格後の金額を基礎として算定します。
①大阪地判平成6年3月28日・交民27巻2号438頁
事故の約2年8か月後に退職した警察官(事故当時51歳)につき,退職までの各年度の昇給後の給与(調整手当の増額分を含む)及び賞与,時間外手当についての損害を認めた。
(3) 賞与の減額
給与の減額と同様,賞与の減額についても休業損害として計算されます。
(4) 症状固定前の退職
事故で退職した場合,一見,退職後は休業損害がないかとも思えますが,退職について事故と相当因果関係があれば,退職後にも休業損害が認められます。症状が重く就労が不可能であれば,症状固定時までの休業損害が認められます。また,事故によって退職した後,治癒した場合,休業損害は治癒時までに限らず,合理的な休職期間について,休業損害と認められることがあります。