【交通事故】会社役員の休業損害

2015/02/22

1 休業損害とは
休業損害とは,傷害により仕事ができなくなり,得べかりし利益を失ったことに対する損害で,その発生期間は,原則として事故発生時から傷害の治癒または後遺障害の症状固定日または死亡日までの期間となります(症状固定日または死亡日の翌日以降の逸失利益は後遺障害逸失利益または死亡逸失利益として算定されます)。

事故前の収入(基礎収入)から,休業日数に対応する金額を算定し,休業損害を計算します。

2 基礎収入の考え方
会社役員の役員報酬は,会社との委任契約に基づくものであり,普通の従業員が労働の対価として得る給与とは異なり,労務対価部分以外の会社の利益配当部分が含まれており,利益配当部分は会社を休んでも金額に影響がないと考えられます。
したがって,労務対価部分についてのみ,休業損害の算定の基礎となります。

どのように労務対価部分を算定するかについては,抽象的には,会社の規模・利益状況,当該役員の地位・職務内容,年齢,役員報酬の額,他の従業員の職務内容と報酬・給料の額(親族役員と非親族役員の報酬額の差異),事故後の当該役員および他の役員の報酬額の推移,類似法人の役員報酬の支払状況等を検討して決めることとなります。

3 役員報酬全額を労務の対価と認めた事例

① 千葉地判平成6年2月22日・交民27巻1号212頁
建物解体工事・建材卸業等を目的とする会社の代表者につき,個人会社で被害者の職務内容も肉体労働が多いこと,事故報酬の全額が支給されていないこと等から,月額100万円の役員報酬全額を労務の対価と認めた(もっとも,休業期間については,主張期間(6か月)の半分(3か月)とされました)。

② 東京地判平成11年6月24日・交民32巻3号925頁
会社役員(男,固定時41歳)につき,名目的取締役であったこと,従業員として労働に従事していたこと,事故後報酬の全額が支給されていないことから,役員報酬部分(月額4万5000円)についても労働の対価であったとして,事故前の年収806万3000円を基礎として休業損害を認めた。

4 役員報酬の一部を労務の対価と認めた事例

① 東京地判平成17年1月17日・交民38巻1号57頁
印刷会社の専務取締役(男・固定時57歳)のゴルフプレー中の事故つき,会社の規模(社員7名・うち3名が親族)・利益状況(事故後の次期に売上高が減少し,営業損失を計上)に加え,被害者が実質的な営業活動をしていたこと,事故後の役員報酬の減少状況,学歴等の照らし,控え目にみても役員報酬のうち労務対価性のある部分は月額130万円の70%,91万円を下らないとして,実際に支給を受けた額(月額90万円×10か月)を控除して症状固定まで19か月分,738万円を認めた。