【交通事故】車両時価額を超える修理費賠償請求

2015/02/26

1 車両の損害について

例えば,自動車(時価額50万円)を運転していたところ,追突事故に遭い,仮に修理した場合の見積額が30万円である場合,修理費用30万円が賠償の対象となります。
しかし,上の場合で,修理の見積額が80万円の場合,経済的全損となり,時価額50万円に買換諸費用を加算した金額(以下,時価額+買換諸費用を「時価額」といいます)が賠償の対象となります。

では,修理費用が時価額を超える場合であるにもかかわらず,修理費用が賠償の対象となる場合はないのでしょうか。

この点に関し,時価額を超える修理費用の賠償を認める可能性を示した裁判例を紹介します。

2 大阪地判平成26年1月21日・交民47巻1号68頁

 

自動車対自動車の事故で,被害車両の時価額が524万4000円で修理費用が614万2500円だった事案で,被害者が「当初の見積もり段階での金額が確定的なものではなく,また加害者保険会社から全損扱いを拒否されたため,修理を余儀なくされたものであり,これを経済的全損として取り扱うことは原告に不可能を強いるものである」と主張しました。

結論としては経済的全損として車両時価額に買換諸費用とメーカーオプション価格を加算した金額の賠償を認めるにとどまりましたが,経済的全損の考え方につき,以下のように示しました。

経済的全損法理の根拠は,被害者側の損害拡大防止義務にあるものと考えられ,信義則(民法1条2項)を一応の根拠とするものと考えられる。そして,その具体的な内容としては,当事者の公平の観点から,不法行為を受けた被害者はその損害回復に当たって,損害が最小となるような方法を適宜選択すべきであり,それをせずに拡大した損害部分については,不法行為と事実的因果関係のある損害であっても,加害者に賠償義務を認めない,というものである。このように考えると,損害拡大について,被害者の予見可能性や予見義務,回避可能性が否定される場合には,信義則及び損害の公平な分担という不法行為の法理に照らし,時価額を超えた修理費用等について,加害者が賠償すべき損害として認めることもありうる」

3 被害者の予見可能性や予見義務,回避可能性が否定される場合

例えば,修理着工後,新たな修理箇所が見付かり,当該箇所も修理した結果,時価額を上回ってしまったような場合が想定されます。
このような場合,被害者としては,修理と買換のいずれが高額になる可能性が高いかということについて十分な判断材料がありませんから,経済的全損法理が妥当しないといえるでしょう。