【交通事故】慰謝料が増額される場合

2015/01/30

 

 

 

交通事故による慰謝料には,入通院慰謝料,後遺障害慰謝料,死亡慰謝料があります。慰謝料は精神的苦痛を金銭評価するものですので,各人によってその金額が違うかに思われますが,「交通事故損害額算定基準」(日弁連交通事故相談センター本部,通称「青本」),「民事交通事故訴訟 損害賠償額算定基準」(日弁連交通事故センター東京支部,通称「赤い本」)などによって基準が示され,裁判においても,概ねこの基準に従って慰謝料額が認定されます。
これにより,被害者間の公平が図られ,数多くの事件を処理していかなければならない裁判所の負担も軽減されるメリットはありますが,あくまで一般的な交通事故から発生する一般的な慰謝料の基準を示したものにすぎませんので,事故に特殊な事情があり,通常の場合に比べてより強い精神的苦痛を被ったと認められる場合には,慰謝料の増額が認められています。

 

1 慰謝料増額が認められる場合

 
「赤い本」(平成26年版183頁)によると,慰謝料の増額事由として,「加害者に故意若しくは重過失(無免許,ひき逃げ,酒酔い,著しいスピード違反,ことさらに赤信号無視等)または著しく不誠実な態度等がある場合」が挙げられています。
このうち「著しく不誠実な態度」が認められた事例として数が多いのは,加害者が虚偽の供述をし,ことさらに事故の責任を否定した場合です。こういった場合,事故直後には被害者が十分な金銭的補償を加害者側保険会社から受けられなかったり,解決までの期間が不当に延びるという不利益を被ることになりますので,慰謝料増額が認められることになります。

 

2 裁判例<死亡事例>

 
※「赤い本」(2015年度上巻155頁)は,近親者の慰謝料を含む慰謝料総額の目安を,「一家の支柱2800万円」,「母親,配偶者2400万円」,「その他(独身の男女,子ども等)2000万円~2200万円」としています。

① 大阪地判平成18年8月31日・交民39巻4号1215頁 
会社員(男・34歳・独身)につき,加害者が,被害車両に非常識な割込をされたと立腹し,報復のために至近距離を保ったまま約400メートルにわたって加害車両で煽り行為を行い,被害者がほぼノーブレーキで先行車へ衝突するという事故を招いたこと等から,3000万円を認めた。

② さいたま地判平成19年11月30日・交民40巻6号1558頁
土木工事業者(男・37歳)につき,加害車両が無免許・飲酒・居眠運転により,対向車線に進出して被害車両と衝突し,加害車両運転者,同乗者とも事故後救助をしないのみならず,運転者は同乗者に対し運転者について虚偽のの供述を求め,自分は運転していないなど虚偽供述を繰り返したこと,長男も死亡し妻や娘も重傷を負うなど一家全体に重大な結果が生じていること等から,本人分2500万円,妻300万円,子3人各200万円,父母各100万円,合計3600万円を認めた。

 

 裁判例(その他) 

①東京地裁平成25年11月13日判決・交民46巻6号1437頁
併合11級(嗅覚障害につき12級相当,歯牙障害につき13級5号該当,顔面部醜状障害につき14級10号該当)と判断された男性(症状固定時29歳,焼き鳥店勤務)のケースで,この男性の後遺障害慰謝料に関し,裁判所は,「和食の飲食店を自ら開店する夢を持って,当時勤めていた焼き鳥店の店主の了解も得た上,同店で勤務をしていた男性が,同店での勤務や将来の和食の飲食店の開店に不可欠ともいえる嗅覚脱出に陥ったこと」を認定の上,  「原告(男性)の各後遺障害の内容に加え,原告が将来の夢であった和食の飲食店の開店を断念せざるを得ず,また,調理人として生きていくこともできなくなったことをも考慮すると,原告が本件事故により各後遺障害を負ったことに対する慰謝料は,これを500万円とするのが相当である」と判示しました。

 

 

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