民事執行法の見直しについて(預貯金口座の特定制度)

2016/08/09

法務省は,裁判などで確定した賠償金や子どもの養育費が不払いにならないよう,支払義務がある人の預貯金口座の情報を金融機関に明らかにさあせる仕組みを導入するとのことで,2018年ごろに民事執行法改正案の国会提出を目指しているとのことです。

現在,預貯金口座に対して差押えの強制執行をしようとする場合,債権者(支払いを請求する人)側で債務者(支払い義務がある人)が預貯金を有している金融機関と支店名を特定する必要があります。
しかし,例えば,養育費の支払いが滞ったので差し押さえをしようとするような場合,離婚時点では預貯金口座のある金融機関の支店を把握していたとしても,差し押さえようとする時点でまだその口座が利用されているとは限りません。
また,犯罪の加害者など,それまでの生活上で関わり合いのない人が債務者になった場合,金融機関自体,特定することは非常に困難です。
その結果,裁判などで権利の存在は認められたが,現実には回収できないという事態が多く生じていました。

今後の法改正に基づく手続が具体的にどのようなものになるかはまだ分かりませんが,債務者が預貯金口座を有する場合,当該口座を把握できる可能性が高くなり,その範囲では強制執行が容易になると思われます。

口座さえ特定できれば強制執行できるのにという状況にある場合,法改正が待ち遠しいところです。
しかし,注意が必要なのは,養育費については具体的な請求権として発生していることが必要ということです。裁判でも合意でも,養育費が一度も決められたことがないという場合,過去に遡って養育費を請求することはできないという考え方が一般的ですので,そもそも差押さえの前提となる請求権自体が存在しないことになり,強制執行はできません。

元配偶者(元夫)と関わり合いを持ちたくないというから養育費を要求していないというケースでは,法改正は無関係かもしれませんが,回収できそうにないからという理由であれば,法改正によって回収が可能となるケースもあると思われます。このケースで法改正を待ってから養育費を請求していては,請求時点からの養育費しか認められませんので,現時点で回収が期待できなくても,ひとまず養育費を請求し,権利を確定させておいて,法改正を待つということが有益な場合もあると思われます。